東京大学大学院の書庫の奥深く、人知れず、半世紀以上も眠っていた、約660点のポスターがある。
アメリカを始め諸外国から集められた、第一次世界大戦期のプロパガンダポスター。
同大学院情報学環の「戦争とメディア」研究プロジェクトのもと、デジタルアーカイブとしてデータベース化され、この4月、ついにインターネットで一般公開の運びとなった。
この時代のプロパガンダポスターがこれほど大量に万人の目に触れるのは、国内初であり、またその希少性も類を見ない。そこで、主宰者の吉見俊哉教授に、プロジェクトについて話を伺った。
貴重な文化遺産を
永遠に埋もれさせるな
「極東の日本にこれだけのコレクションがありながら、日の目を見ないままとなっている。この貴重な文化遺産を、一般公開し、人々の共有財産として生かしたい。その想いが、プロジェクトのきっかけでした」と語る、吉見教授。ポスターはどれも、退色も染みもなく、制作から一世紀近くの時を経たとは思えないほど鮮やか。「保存状態のよさだけでなく、規模としても日本で最大級のものでしょう。第一次世界大戦期のプロパガンダポスターは、当時の社会背景、デザイン、印刷技術などを知る上での第一級の資料といっても過言ではありません」と、熱く語る。そもそもこれらのポスターは、旧外務省が収集していたもので、第二次大戦後、廃棄処分になるところを、かろうじて東大が譲り受けたものだという。奇跡的に生き延び、多くの人の努力によって、半世紀以上の眠りから、ついに目覚めることとなった。
永遠に埋もれさせるな
「極東の日本にこれだけのコレクションがありながら、日の目を見ないままとなっている。この貴重な文化遺産を、一般公開し、人々の共有財産として生かしたい。その想いが、プロジェクトのきっかけでした」と語る、吉見教授。ポスターはどれも、退色も染みもなく、制作から一世紀近くの時を経たとは思えないほど鮮やか。「保存状態のよさだけでなく、規模としても日本で最大級のものでしょう。第一次世界大戦期のプロパガンダポスターは、当時の社会背景、デザイン、印刷技術などを知る上での第一級の資料といっても過言ではありません」と、熱く語る。そもそもこれらのポスターは、旧外務省が収集していたもので、第二次大戦後、廃棄処分になるところを、かろうじて東大が譲り受けたものだという。奇跡的に生き延び、多くの人の努力によって、半世紀以上の眠りから、ついに目覚めることとなった。
約660点のポスターが
静かに語りはじめた
「たとえば、作業着の女性が飛行機と弾丸を両手に掲げるポスター(下段左)は、戦時下で女性の労働力の重要性が公に認められる世相をうかがわせます。また、食料の増産を呼びかけるポスター(中段左)では、すでにアメリカの豊かさのイメージが表れていますね」吉見教授によると、ラジオや映画がまだ普及していない1910年代は、ポスターというメディアこそが、いまとは比較にならないほどの影響力を持つ中心的なメディアだった。
また、当時の世相を色濃く反映するだけでなく、イラストレーターなどが全国的な名声を得る舞台にもなっていたらしい。「有名なのは、ハワード・クリスティ。彼の描く女性はクリスティガールズと呼ばれ、一世を風靡しました(たとえば中段右)」そしてその後、商品パッケージや広告にも登場したとのこと。“プロパガンダから広告へ”という時代の流れを解き明かす好材料になるのではないか、と教授は考えている。
さらに、美術や印刷の専門家の協力を得て、つくり方についても興味深いことがわかった。「一枚一枚、刷り方、つくり方、使われている技術が違うのです。大きな驚きでした」第一次世界大戦期は、ちょうど石版印刷から大量印刷への転換期だった。そのため、手作りの職人芸と当時の最先端の印刷技術が混在した高度なつくり方になっている。「それらを読み解くことで、世界の印刷史のミッシングリンクが埋まるはずとも言われています。また、アートとしても、工業的に大量生産された第二次大戦期のポスターと較べると、はるかにレベルが高く貴重な資料と言っていいでしょう」
静かに語りはじめた
「たとえば、作業着の女性が飛行機と弾丸を両手に掲げるポスター(下段左)は、戦時下で女性の労働力の重要性が公に認められる世相をうかがわせます。また、食料の増産を呼びかけるポスター(中段左)では、すでにアメリカの豊かさのイメージが表れていますね」吉見教授によると、ラジオや映画がまだ普及していない1910年代は、ポスターというメディアこそが、いまとは比較にならないほどの影響力を持つ中心的なメディアだった。
また、当時の世相を色濃く反映するだけでなく、イラストレーターなどが全国的な名声を得る舞台にもなっていたらしい。「有名なのは、ハワード・クリスティ。彼の描く女性はクリスティガールズと呼ばれ、一世を風靡しました(たとえば中段右)」そしてその後、商品パッケージや広告にも登場したとのこと。“プロパガンダから広告へ”という時代の流れを解き明かす好材料になるのではないか、と教授は考えている。
さらに、美術や印刷の専門家の協力を得て、つくり方についても興味深いことがわかった。「一枚一枚、刷り方、つくり方、使われている技術が違うのです。大きな驚きでした」第一次世界大戦期は、ちょうど石版印刷から大量印刷への転換期だった。そのため、手作りの職人芸と当時の最先端の印刷技術が混在した高度なつくり方になっている。「それらを読み解くことで、世界の印刷史のミッシングリンクが埋まるはずとも言われています。また、アートとしても、工業的に大量生産された第二次大戦期のポスターと較べると、はるかにレベルが高く貴重な資料と言っていいでしょう」

(1063×714)

(1029×714)

(555×355)

(1004×694)

(1050×696)

多元的に進化し成長する
文化遺産のアーカイブへ
解明されたことは氷山の一角にすぎないと吉見教授は語る。「これらのポスターについて、さまざまな分野の研究者が、世界中から情報を持ち寄り、インターネットに公開されたデータベースに反映させ、意見交換を重ねながら多元的な見方のできる文化遺産のアーカイブをつくりあげてゆく — それがこのプロジェクトの今後の目標ですね」そして、その目標達成のためにも、研究者の“もっとこうしたい”という要求に柔軟に応えてくれるツールが不可欠だったという。「われわれ文系の人間でも、自力でデータベースを作成できるし、項目やレイアウトの追加や変更もかんたんなので、そのツールとして FileMaker を選んだわけです」インターネットでの一般公開に続き、近い将来、これらのポスターのシンポジウムや展示会が予定されるなど、教授の構想はますます広がっているようだ。
文化遺産のアーカイブへ
解明されたことは氷山の一角にすぎないと吉見教授は語る。「これらのポスターについて、さまざまな分野の研究者が、世界中から情報を持ち寄り、インターネットに公開されたデータベースに反映させ、意見交換を重ねながら多元的な見方のできる文化遺産のアーカイブをつくりあげてゆく — それがこのプロジェクトの今後の目標ですね」そして、その目標達成のためにも、研究者の“もっとこうしたい”という要求に柔軟に応えてくれるツールが不可欠だったという。「われわれ文系の人間でも、自力でデータベースを作成できるし、項目やレイアウトの追加や変更もかんたんなので、そのツールとして FileMaker を選んだわけです」インターネットでの一般公開に続き、近い将来、これらのポスターのシンポジウムや展示会が予定されるなど、教授の構想はますます広がっているようだ。

FileMaker Pro 8 を使って作成した、約660点のポスターのデータベース。画像の取り込み、画面を見ながらのデータ入力、項目やレイアウトの追加・変更もかんたん。検索・ソートはもちろん、直接PDFファイルにしたり、さまざまなレイアウトで印刷でき、研究者間の資料配布にも便利。このデータベースが、 FileMaker Server 8 Advanced を使って、インターネットに一般公開される。

吉見俊哉(よしみ・しゅんや)
1957年東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は、社会学、文化研究。近代化の中のポピュラー文化と日常生活をテーマに、メディアと都市に焦点を当てた研究を展開。著書に『都市のドラマトゥルギー』('87年)『カルチュラル・ターン』('03年)『万博幻想』('05年)他多数。
1957年東京都生まれ。東京大学大学院情報学環教授。専門は、社会学、文化研究。近代化の中のポピュラー文化と日常生活をテーマに、メディアと都市に焦点を当てた研究を展開。著書に『都市のドラマトゥルギー』('87年)『カルチュラル・ターン』('03年)『万博幻想』('05年)他多数。
第一次世界大戦期
プロパガンダポスター・コレクション
「戦争とメディア」研究プロジェクト
(21世紀COEプログラム
「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」)
http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp
プロパガンダポスター・コレクション
「戦争とメディア」研究プロジェクト
(21世紀COEプログラム
「次世代ユビキタス情報社会基盤の形成」)
http://archives.iii.u-tokyo.ac.jp
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